例題6: 密閉筐体内の発熱ブロック自然対流冷却(共役熱伝達 + 浮力)
ファンのない密閉筐体内の自然空冷を、発熱する固体(アルミブロック)と 周囲空気の共役熱伝達(CHT)+ 浮力対流で解きます。電子機器の受動冷却の 最小構成モデルです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 解析タイプ | 固体+流体の熱連成(CHT)+ 自然対流(浮力 Boussinesq) |
| ソルバ | chtMultiRegionSimpleFoam(定常・層流は自動強制) |
| ジオメトリ | 100×20×100 mm 密閉キャビティ中央に 25 mm 角アルミブロック |
| 固体 | アルミ(κ=237 W/m·K, cp=897 J/kg·K, ρ=2700 kg/m³)・発熱 20 W |
| 冷却壁 | X/Z の全 4 壁を固定温度 300 K(冷却筐体)・Y は symmetry(擬似 2D) |
| 重力 | Z 方向 −1.0 m/s²(教材用の人工条件。実重力 9.81 の約 1/10 に落として層流域 Ra ≈ 1.5×10⁵ に調整) |
| メッシュ | 64×1×64(擬似 2D スラブ)+ ブロック面の細分 |
| 実行規模(目安) | 5,000 反復・1 コア・約 10〜30 分・1 クレジット |
所要時間は目安です。実行環境・メッシュ規模・混雑状況により変動します。
この例題で学べること
- CHT 固体領域の追加 — STEP を固体としてアサインし、材料物性と発熱量を設定する
- 自然対流(Boussinesq)の設定 — 重力・体積膨張係数 β・基準温度 T₀ の意味
- 密閉キャビティの境界条件 — inlet/outlet なし。固定温度壁(冷却面)と symmetry(擬似 2D の薄い方向)だけで解く
- 熱定常の判断 — 固体温度の反復履歴が漸近したら定常(残差だけでは判断しない)。
定常ソルバの
Timeは物理時間ではなく反復回数なので、変化率は 「K / 反復」で見ます
実行手順
- ex06_buoyant_block.ofb.zip をダウンロードする
-
StreamWright サイドバーの 📂 Load Project (.ofb.zip) に投入する

-
設定の見どころ
- 🎯 解析タイプ: CHT + 追加機能「自然対流(浮力 Boussinesq)」が ON
- 4️⃣ Physics: 固体領域
block(アルミ・発熱 20 W)、重力 Z = −1.0 m/s² - 1️⃣ Patch Setup → ドメイン面: X/Z 壁 = 固定温度 300 K、Y = symmetry。 STL パッチはゼロ(密閉キャビティはドメイン箱だけで表現できます)
- 2️⃣ Base Mesh: 64×1×64 — 重力(Z)が解像面(X-Z)内にあることが重要です
- 6️⃣ Run タブ → ケースサマリを確認して 🚀 Generate & Run

期待される結果
| 量 | 値 | 確認場所 |
|---|---|---|
| ブロック定常温度 | 約 314 K(ΔT ≈ 14 K、ほぼ等温) | 温度履歴・レポート |
| 浮力プルーム | ブロック上面から上昇流 | 断面コンター(T・U) |
| 熱定常 | 固体温度の変化率 < 0.01 K/反復 に到達 | 温度の反復履歴の漸近 |
| 発散しないこと | 完走(Time = 5000) | Run タブ |


💡 流体のエンタルピー残差は固体-流体界面の連成に起因して ~5×10⁻³ で頭打ちに なりますが、発散ではありません。温度履歴が漸近していることが定常の根拠です。 残差の絶対値だけでなく工学量で収束を判断する好例です。
結果の可視化例(Post Processor タブ):


物理的背景(この解析は正しいか?)
共役自然対流は文献値のばらつきが大きいため、この例題は定性検証 (サニティケース)です。加えて、重力を実重力の約 1/10 に落とした 教材用の人工条件であり、実機の受動冷却設計にそのまま使える数値では ありません。チェックポイント:
- エネルギー収支: 定常では発熱 20 W がすべて冷却壁から抜けます
- ΔT の妥当性: 実測ベースの校正値(このジオメトリ・重力で ΔT ≈ 14 K)と一致するか
- Ra の見積り: Ra = gβΔT·L³/(να) ≈ 1.5×10⁵ → 層流域(乱流モデル不要)
⚠️ 重力の向きに注意: 擬似 2D(1 セル厚)で解く場合、重力は必ず解像される 面内(この例では X-Z 面)に置いてください。薄い方向(Y)に向けると浮力が 拘束され、対流が立ちません。 また ΔT が小さすぎる問題設定(例: 発熱 0.5 W → ΔT 0.35 K)では浮力項が 桁落ちして対流がほぼ消えます。無次元数(Ra)を見積もってから条件を決めましょう。
⚠️ 輻射は含んでいません: 本例題は自然対流のみのモデルです。実機の密閉 筐体で高放射率の表面(黒アルマイト等)を使う場合、この温度帯でも輻射が 対流と同程度の放熱経路になり得ます。見積もり方と輻射の入れ方は 例題14(輻射伝熱) を参照してください。
自分の問題に応用するには
- 実重力(−9.81)にする場合: Ra が乱流域(>10⁹ 目安)に入らないか確認して ください。本製品の自然対流 CHT は層流を前提としています
- 発熱量・材料の変更: Physics タブの固体設定でそのまま変更できます
- 筐体形状を STL にする: 密閉筐体の外形 STL を wall として与えれば、 箱以外の筐体形状も扱えます
- 自分のジオメトリで解くには: 密閉容器と発熱固体の構成・重力方向の制約は ジオメトリ準備ガイド 第3章(CHT) にまとめています。CAD ソフト別の操作は 第7章 を参照してください
ジオメトリ: fixtures/cht/buoyant_block(リファレンス検証: v1.7 PR3 実走 ΔT≈14 K・ 2026-07-16 例題化時に再実行して確認)