例題14: 高温部品からの輻射伝熱(CHT + viewFactor 輻射)
高温部品では、対流だけでなく熱輻射が無視できない放熱経路になります。 この例題では ex04 と同じヒートシンクの発熱を 3 倍(30 W)に上げて 固体を高温帯に置き、表面間輻射(viewFactor モデル)の効果を 輻射 ON/OFF の温度差と熱収支(保存則)で定量的に確かめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 解析タイプ | 固体+流体の熱連成(CHT・2 リージョン)+ 輻射 |
| ソルバ | chtMultiRegionSimpleFoam(定常)・輻射は viewFactor(表面間放射) |
| 乱流モデル | k-ε |
| ジオメトリ | ダクト内アルミヒートシンク(ex04 と同一形状) |
| 発熱 | 30 W(ex04 の 3 倍 → 固体 ~430 K の高温帯) |
| 輻射設定 | 壁面放射率 ε = 0.9・solverFreq 5(検証済み推奨値) |
| メッシュ | snappyHexMesh・約 10 万セル(固体まわり細分化 level 2) |
| 実行規模(目安) | 8 コア・約 4.5 時間(定常 10,000 反復)・1 クレジット |
所要時間は目安です。実行環境・メッシュ規模・混雑状況により変動します。
この例題で学べること
- 輻射の有効化 — 解析タイプタブのチェック+ Physics タブでモデルと 壁面放射率を選ぶだけ(viewFactor の並列前処理は自動実行されます)
- 輻射が効くかどうかの判断 — 温度帯だけでは決まりません。放射熱伝達率 h_r と対流熱伝達率 h_conv の比で見積もる方法と、ON/OFF 比較で 自分の問題での寄与を実測する方法(下記「輻射を無視できるか」)
- 熱収支による検証 — 「固体から出る熱 = 発熱量」の保存則と、 輻射分 qr の Stefan-Boltzmann 概算との整合を確認する
実行手順
- ex14_radiation_heatsink.ofb.zip をダウンロードする
- StreamWright サイドバーの 📂 Load Project (.ofb.zip) にドラッグ&ドロップする

- 各タブで設定を眺める(変更は不要です)
- 🎯 解析タイプ: CHT + 追加機能「☀️ 輻射」が ON
- 4️⃣ Physics: 輻射モデル viewFactor・壁面放射率 0.9・発熱 30 W の アルミヒートシンク
- 6️⃣ Run タブ → 🚀 Generate & Run (decomposePar → faceAgglomerate → viewFactorsGen → ソルバーの順で自動実行)

期待される結果
実行が正常に終われば、以下とほぼ同じ数値になります(見本: sample_report.html)。
| 量 | 値 | 確認場所 |
|---|---|---|
| 固体最高温度(輻射 ON) | 397.3 K | レポート・Post Processor |
| 固体最高温度(輻射 OFF で再実行) | 426.9 K(輻射で 29.5 K 低下) | 同上 |
| 熱収支 ∫wallHeatFlux(固体) | 29.6 W ≒ 発熱 30 W(−1.2%) | postProcessing(下記手順) |
| 界面の輻射熱流 ∫qr | 8.2 W(全放熱の 27%) | postProcessing(swRad_qr) |
| 品質チェック | 合格(PASSED) | 3 段階総合判定 |

温度場の可視化(Post Processor タブ):



熱収支との照合(この解析は正しいか?)
輻射を含む定常 CHT では、次の 2 つが成り立っているはずです。
- 保存則: 固体表面から出る全熱流束の積分 = 発熱量 30 W(±10%)。 本例題では固体リージョンの wallHeatFlux を自動出力しています
- 輻射分の妥当性: 界面の放射熱流 ∫qr は、灰色面の Stefan-Boltzmann 上限 εσ(Ts⁴−T∞⁴)·A に対し 0.3〜1.1 倍 (フィン間の自己視野・温度分布があるため上限より下がる)
照合手順(リポジトリの解析スクリプトで再現可能):
# 輻射 OFF(解析タイプタブでチェックを外す)で実行した後に記録
python scripts/analyze_radiation_heatsink.py Simulation_Run --save-off off.json
# 輻射 ON(本例題の設定のまま)で実行した後に照合
python scripts/analyze_radiation_heatsink.py Simulation_Run --compare off.json
解析結果: 保存則 −1.2%・qr/εσ(Ts⁴−T∞⁴)A = 0.99・ΔT_rad = 29.5 K で全項目パス
💡 放射率 ε は表面仕上げで大きく変わります(黒アルマイト ~0.9・ 研磨アルミ ~0.05)。ε を 0.05 に変えると輻射の寄与がほぼ消えることも 確かめられます。
輻射を無視できるか(事前の見積もり方)
輻射の寄与は温度帯だけでは決まりません。表面温度・周囲温度・放射率・ 形態係数・そして対流熱伝達率の組み合わせで決まります。走らせる前に オーダーを掴むには、放射を線形化した放射熱伝達率を対流熱伝達率と 比べるのが実務的です。
h_r = ε·σ·(Ts² + T∞²)·(Ts + T∞) [W/(m²·K)]
輻射の寄与 ≈ h_r / (h_r + h_conv)
ε = 0.9・T∞ = 300 K の場合の h_r:
| 表面温度 Ts | h_r |
|---|---|
| 314 K | 約 5.9 W/(m²·K) |
| 350 K | 約 7.0 W/(m²·K) |
| 397 K(本例題) | 約 8.8 W/(m²·K) |
自然対流の h_conv は空気中で数 W/(m²·K) 程度なので、室温付近であっても 高放射率の表面・自然対流の条件では、輻射は対流と同程度かそれ以上になり得ます。 逆に強制対流(h_conv が 10〜100 W/(m²·K))や低放射率表面(研磨金属 ε ~0.05) では相対的な寄与は小さくなります。
本例題は強制対流ダクト内(h_conv が大きい側)にもかかわらず ε = 0.9・ Ts ≈ 397 K で qr = 8.2 W(全放熱の 27%) となっており、上の見積もりと 整合します。迷ったら輻射 ON/OFF の 2 回実行で実測するのが確実です。
自分の問題に応用するには
- モデル選択: 表面間放射が主体の筐体・空洞は viewFactor。 媒体(煙・燃焼ガス)の吸収が効く問題は P1 / fvDOM(実験的)を検討
- 入れるか外すかの判断: 上記 h_r / h_conv の比で見積もり、境界的なら ON/OFF の 2 回実行で実測してください。密閉筐体・真空環境・高放射率表面 では原則必須です(真空では輻射が唯一の放熱経路になります)
- 計算コスト: viewFactor は前処理(視野係数計算)が重いため、 メッシュを変えるたびに前処理が再実行されます
- 自分のジオメトリで解くには: 固体を流体ボリュームに内包させる考え方は ジオメトリ準備ガイド 第3章(CHT) にまとめています。CAD ソフト別の操作は 第7章 を参照してください
ジオメトリ: fixtures/cht/heat_sink_1(ex04 と共用)。 検証: 2026-07-23 実機 E2E で T_on=397.3 K / T_off=426.9 K(ΔT_rad=29.5 K)・保存則 −1.2%・qr=8.2 W(SB 上限比 0.99)・PASSED を確認