例題18: 懸垂粒子雲の重量転嫁(双方向結合 DPMFoam・静水圧厳密解照合)
粒子が流れに押し返す効果 — 双方向結合(two-way coupling)— を、 垂直管内に浮遊する粒子雲の「重量が気体の圧力差に転嫁される」現象で 検証します。例題13(ワンウェイ結合)では原理的に現れない効果を、 抗力則に依存しない静水圧の厳密解と突き合わせる、双方向結合ならではの 答え合わせです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 解析タイプ | 単相流(非圧縮)+ ラグランジュ粒子追跡(Phase 2: 双方向結合) |
| ソルバ | simpleFoam(初期流れ場)→ DPMFoam(流体+粒子の同時時間積分) |
| 乱流モデル | Laminar(層流・双方向結合の検証済み適用範囲) |
| ジオメトリ | 垂直直管(内径 D = 20 mm・長さ L = 500 mm・軸 = 鉛直) |
| 流体 | 空気(ρ = 1.225 kg/m³, μ = 1.78×10⁻⁵ Pa·s)・微小通流 0.005 m/s(ほぼ静止) |
| 粒子 | ガラス球 ρp = 2500 kg/m³・d = 30 μm・10,880 パーセル × 粒子数/パーセル 10 = 約 10.9 万個(総質量 ≈ 3.8 mg)を高さ 100〜250 mm の帯へ一括投入 |
| メッシュ | snappyHexMesh・1.5 mm 立方(管断面に 13 セル)・約 4.6 万セル |
| 実行規模(目安) | 1 コア(DPMFoam はシリアル実行)・合計約 5 分(実測 4 分 33 秒 — メッシュ生成+simpleFoam+DPMFoam。2026-09-01・開発機)・1 クレジット |
この例題で学べること
- 双方向結合の有効化 — Physics タブの「🔁 Two-way coupling」にチェック するだけでソルバーが DPMFoam に自動切替。「粒子数/パーセル (nParticle)」で 質量負荷と計算コストのバランスを取る
- ワンウェイとの本質的な違い — 粒子→流体の反作用。浮遊する粒子雲の 重量(浮力補正済み)が抗力の反作用としてそっくり気体に乗り、管端間の 圧力差 ΔP が増える。流体場を凍結するワンウェイ結合では ΔP は 1 Pa たりとも 動かない(構造的対照)
- 抗力則に依存しない厳密解での照合 — 「浮遊中の粒子は自重と抗力が 釣り合う」という力学だけから ΔP の厳密解が出るため、モデル仮定に 依存しない答え合わせができる
実行手順
- ex18_twoway_cloud.ofb.zip をダウンロードする
- StreamWright サイドバーの 📂 Load Project (.ofb.zip) にドラッグ&ドロップする

- 各タブで設定を眺める(変更は不要です)
- 🎯 解析タイプ: 追加機能「💨 ラグランジュ粒子追跡」が ON
- 4️⃣ Physics: 「🔁 Two-way coupling」が ON・粒子数/パーセル 10・ manualInjection の注入座標 10,880 点(管内の帯 z = 100〜250 mm に 一様充填した粒子雲)・壁面 rebound(反発)
- 6️⃣ Run タブ → 🚀 Generate & Run(初期流れ場 → DPMFoam が自動で連続実行)

期待される結果
実行が正常に終われば、以下とほぼ同じ数値になります(見本: sample_report.html)。
| 量 | 値 | 確認場所 |
|---|---|---|
| ΔP ステップ量(雲浮遊中 − 雲消滅後) | 0.119 Pa(厳密解 0.120 Pa・−0.7%) | ΔP モニタ(下記の照合手順) |
| 減衰期の回帰傾き ΔP(t) vs W(t) | 1.07(許容 0.9〜1.1) | 同上 |
| 雲消滅後の ΔP | 5.98 Pa(空気柱の静水圧 6.01 Pa・−0.4%) | 同上 |
| 粒子の収支 | ほぼ全量が床面へ到達し escape(残存 2/10,880 パーセル) | 品質チェック「粒子追跡」 |
| 品質チェック | 合格(PASSED) | 3 段階総合判定 |

主図: ΔP(t) と浮遊質量 Mp(t) のステップ応答。雲が浮遊している間だけ ΔP が厳密解のぶんだけ持ち上がり、雲が床に到達して消えると単相値へ戻ります。 ワンウェイ結合なら ΔP は点線のまま一定 — この段差そのものが「粒子が流れを 押し返す」双方向結合の直接の証拠です:

粒子雲の沈降過程(各時刻の粒子位置・x-z 断面):

流れ場の断面(Post Processor タブ・管軸を含む x-z 面):

理論値との照合(この解析は正しいか?)
雲が浮遊している間、個々の粒子は終端速度で沈降し抗力 = 重力(浮力補正済み)が 成り立ちます。作用反作用により、粒子が受ける抗力とちょうど同じ力が気体に 下向きに働くため、管端間の圧力差は
- ΔP = ρc·g·L + Mp·g·(1 − ρc/ρp)/A(静水圧 + 懸垂粒子重量の転嫁)
となります。これは抗力則(Schiller-Naumann 等)の中身に依存しない厳密解です。
- 空気柱の静水圧: ρc·g·L = 6.01 Pa
- 懸垂重量の転嫁分: Mp·g·(1 − ρc/ρp)/A = 0.120 Pa(Mp = 3.84 mg・A = 管断面積)
- 雲は終端速度 u_t ≈ 0.06 m/s で沈降し、t ≈ 1.6〜4.1 s で床面(inlet)に 到達して escape 消滅 → ΔP は単相値へステップ状に戻る
- 照合帯域: ステップ量 ±10%・減衰期の回帰傾き 1±0.1(減衰期は懸濁層の フィンガリング対流による動圧が乗るため緩い検定)
照合手順(リポジトリの解析スクリプトで再現可能):
python scripts/analyze_twoway_holdup.py Simulation_Run
解析結果は ΔP ステップ実測 0.119 Pa(厳密解比 −0.7%)・回帰傾き 1.07 で 帯域内に収まります。
💡 同じプロジェクトで「🔁 Two-way coupling」を OFF にして実行すると、 粒子は同じように沈降するのに ΔP は一定のまま — ワンウェイ結合が 「粒子が流れへ影響しない」近似であることをその目で確かめられます。
自分の問題に応用するには
- 使いどころ: 粒子の体積率が高く粒子→流体の反作用が無視できない系 (粉体搬送ラインの追加圧損・沈降槽・薄い噴霧の運動量交換など)の あたり付け。粒子が微量ならワンウェイ結合(例題13)で十分です
- 粒子数/パーセル (nParticle) で実粒子数を保ったままパーセル数 (計算コスト)を調整できます
- 適用範囲の確認: 双方向結合の検証済み範囲は層流キャリア・希薄粒子 (体積率 ≲1%)・粒子間衝突なしです。乱流キャリアとの双方向結合や 濃厚粒子流(流動層等)には対応していません。 なお、ワンウェイ/双方向を分ける目安は体積率だけではありません。 質量負荷 φ_m = ṁ_粒子 / ṁ_流体も併せて見てください(φ_m ≳ 0.1 が 双方向結合を検討する目安)。体積率が 1% を下回っていても、粒子密度が 流体より桁で大きい系では質量負荷が先に効いてきます
- 自分のジオメトリで解くには: 管内流路の流体ボリューム化(粒子側にジオメトリは不要です)は ジオメトリ準備ガイド 第1章(内部流れ) にまとめています。CAD ソフト別の操作は 第7章 を参照してください
ジオメトリ: fixtures/internal_flow/pipe_vertical の垂直直管。 検証: 2026-07-29 実機 E2E で ΔP ステップ 0.119 Pa / 静水圧厳密解 0.120 Pa (−0.7%)・回帰傾き 1.07・PASSED を確認