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例題11: Taylor-Couette 回転円筒(AMI スライディングメッシュ)

MRF(例題10)が「回転を定常近似する」機能だったのに対し、この例題では メッシュそのものを回転させる動的メッシュ(AMI: Arbitrary Mesh Interface) を使います。回転部と静止部の境目に置いた AMI 切断面がスライディング インターフェースとなり、両側の場を毎ステップ補間で接続します。

題材は回転機械 CFD の検証で定番の Taylor-Couette 流れ(同心二重円筒間の せん断流)です。層流域ではトルクに厳密解があるため、AMI 補間を通した 運動量輸送の精度を数値で直接検証できます。

項目 内容
解析タイプ 単相流(非圧縮)・Internal + 動的メッシュ(AMI 回転)
ソルバ pimpleFoam(非定常・動的メッシュで自動選択)
乱流モデル 層流(Ta = 316 < 臨界 1708 で Taylor 渦なし)
ジオメトリ 内円筒 R1 = 40 mm(回転)・外円筒 R2 = 60 mm(静止)・軸長 L = 40 mm
AMI 切断面 間隙中央の円筒面 r = 50 mm(rotor.stl 由来)
回転条件 300 RPM(Ω = 31.416 rad/s・周速 1.26 m/s)
流体 シリコンオイル級: ρ = 900 kg/m³・ν = 1×10⁻³ m²/s
メッシュ snappyHexMesh・約 127,000 セル(表面 1.25 mm)
実行規模(目安) 4 コア・約 70 分・1 クレジット

所要時間は目安です。実行環境・メッシュ規模・混雑状況により変動します。

この例題で学べること

  1. AMI 回転のケース構成 — 回転領域を内包する閉じた「缶」STL (rotor.stl)を ami_rotor パッチとして与えると、缶のうち流体を 横切る面が自動的に AMI 切断面になり、缶内部が回転 cellZone になる
  2. 回転壁パッチの指定 — Physics タブの「回転壁パッチ」で内円筒 (inner_cyl)を選ぶと movingWallVelocity(メッシュ運動から壁速度を 自動計算)が設定される。回転ゾーン内の壁を noSlip のままにすると 絶対系 U=0 の静止壁になってしまう
  3. 密閉領域の解析 — inlet/outlet なし。回転壁が流れを駆動する構成 (撹拌槽・軸受・ロータリーダンパー等と同じ)
  4. トルクモニタ — forceCoeffs 設定の forces1 が毎ステップ postProcessing/forces1/<time>/moment.dat に壁面モーメント [N·m] を出力。 回転機械の軸トルク・動力計算にそのまま使える

MRF と AMI の使い分け

MRF(例題10) AMI(本例題)
メッシュ 静止(座標系だけ回転) 実際に回転
時間 定常近似(simpleFoam) 非定常(pimpleFoam)
得意 軸対称に近い流路・設計スクリーニング 羽根通過非定常・回転/静止部の干渉
コスト 低(数百反復) 高(回転を時間解像)

実行手順

  1. ex11_taylor_couette_ami.ofb.zip をダウンロードする
  2. StreamWright サイドバーの 📂 Load Project (.ofb.zip) にドラッグ&ドロップする

プロジェクトをロードした直後の画面

  1. 各タブで設定を眺める(変更は不要です)
  2. 🎯 解析タイプ: 追加機能「♻️ 動的メッシュ(AMI 回転)」が ON
  3. 4️⃣ Physics: 回転 cellZone rotor・軸 Z・300 RPM・ 回転壁パッチ = inner_cyl・ρ = 900 / μ = 0.9(ν = 1×10⁻³)・層流
  4. 1️⃣ Patch Setup: rotor が ami_rotor タイプ、端面 2 枚は slip(無限長円筒の近似)。inlet/outlet はありません
  5. 8️⃣ Runtime Monitors: forceCoeffs が inner_cyl を対象に ON (トルク = moment.dat の Mz)
  6. 6️⃣ Run タブ → ケースサマリを確認 → 🚀 Generate & Run

Run タブのケースサマリ(実行前レビュー)

  1. 4 コアで約 70 分。0.3 秒(1.5 回転分)を時間解像します

期待される結果

実行が正常に終われば、以下とほぼ同じ数値になります(見本: sample_report.html)。

量 値 確認場所
層流トルク厳密解 T_exact 4.093×10⁻² N·m 下式
解析トルク |Mz|(末尾 20% 平均) 4.503×10⁻² N·m(+10.0%) postProcessing/forces1/0/moment.dat
Richardson 外挿(2 メッシュ・一次収束仮定) 4.081×10⁻² N·m(−0.3%) 下記「誤差の内訳」
定常性 末尾窓の変動 0.4% moment.dat
AMI 健全性 sum(weights) 平均 1.000(min 0.97 / max 1.14) solver.log
品質チェック 合格(PASSED・NG=0/WARNING=0) 3 段階総合判定

実行結果: 総合判定と結果サマリー

結果の可視化例(Post Processor タブ):

2D 断面スライス: 円筒間隙の周方向速度場

理論背景: 層流 Couette 流の厳密解

内円筒(半径 R1・角速度 Ω)が回り外円筒(R2)が静止するとき、層流で 軸方向に一様なら周方向速度は

u_θ(r) = Ω R1²/(R2²−R1²) · (R2²/r − r)

となり、内円筒に働くトルクは

T = 4π μ L Ω R1² R2² / (R2² − R1²) = 4.093×10⁻² N·m

(μ = ρν = 0.9 Pa·s・L = 0.04 m・Ω = 31.416 rad/s)。

この検証構成の要点は AMI 切断面が間隙のちょうど中間(r = 50 mm)に あることです。内円筒が受け取るトルクはすべて AMI 面を横切って外円筒へ 伝わるため、解析トルクが厳密解と合う = AMI 補間が運動量輸送を正しく 伝えている、という直接検証になります。

内円筒トルク履歴と厳密解

誤差の内訳(+10% はどこから来るか)

単一メッシュの +10.0% は AMI 補間の誤差ではなく、snappyHexMesh の castellated 壁(表面の ±0.3 mm 凹凸)が粘性トルクを一次 O(h) で 過大評価するためです。根拠:

つまり、残る誤差の主要因は AMI 補間ではなく壁面形状の離散化である可能性が 高い、というのがこの 2 メッシュから言えることです。

⚠️ 2 メッシュ外挿の限界: 上記は一次収束を仮定した外挿であり、 厳密な格子収束スタディではありません。2 メッシュでは (a) 観測収束次数、 (b) 漸近収束領域に入っているか、(c) 非単調収束でないか、 (d) AMI 誤差と壁面離散化誤差を完全に分離できているか、が確認できません。 正式な格子収束性の評価には3 段階以上の系統的なメッシュ細分化 (と GCI の算出)が必要です。 なお「誤差が粘性トルク側にある」ことは、圧力トルク成分が 4×10⁻⁵ 以下 という直接測定に基づいており、外挿の仮定には依存しません。

層流であることの確認: Taylor 数 Ta = Ω²R1(R2−R1)³/ν² = 316 は臨界値 1708 を大きく下回り、 Taylor 渦は発生しません(軸方向端面を slip にしているのも無限長円筒の 近似として整合的です)。

自分の問題に応用するには


ジオメトリ: fixtures/rotating/taylor_couette(例題化時に新規作成: 2026-07-24・ 層流トルク厳密解照合・AMI weights 健全性確認済み)

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