例題8: 楔翼まわりの超音速流れ(斜め衝撃波・θ-β-M 照合)
マッハ 2 の流れが楔(くさび)に当たると、理論どおりの角度で斜め衝撃波が 立ちます。圧縮性空力の教科書問題を、θ-β-M 関係式と 0.01〜4% で一致する 検証つきで解きます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 解析タイプ | 圧縮性流れ・External(外部流れ) |
| ソルバ | rhoSimpleFoam(定常・transonic 定式化) |
| 乱流モデル | k-ε |
| ジオメトリ | 半頂角 14.0° の楔翼(コード長 100 mm・スパン方向に準 2D) |
| 流入条件 | M∞ = 2.0(静圧 101,325 Pa・静温 300 K・U∞ = 694 m/s) |
| 境界条件 | 超音速入口(p/T/U 全固定)・超音速出口(外挿)・上下 z 面 symmetry |
| メッシュ | snappyHexMesh・約 377,000 セル(翼面 level 3) |
| 実行規模(目安) | 4 コア・約 30 分・1 クレジット |
所要時間は目安です。実行環境・メッシュ規模・混雑状況により変動します。
この例題で学べること
- 超音速の境界条件 — 特性線がすべて下流を向くため、入口は全量固定・ 出口は全量外挿(背圧は上流に伝わらない)になる
- マッハ数入口モード — Physics タブでマッハ数・全温・全圧を与えると 静的量・流速は等エントロピー関係から自動計算される
- 準 2D 解析のテクニック — 翼をスパン方向にドメイン貫通させ、z 面を symmetry にして「無限翼幅」を表現する
- probe による理論照合 — 衝撃波の後ろに観測点を置き、θ-β-M 関係式の 予測値と突き合わせる
実行手順
- ex08_supersonic_wedge.ofb.zip をダウンロードする
- StreamWright サイドバーの 📂 Load Project (.ofb.zip) にドラッグ&ドロップする

- 各タブで設定を眺める(変更は不要です)
- 4️⃣ Physics: 圧縮性・マッハ数入口 M = 2.0(全圧 792,822 Pa・全温 540 K = 静圧 101,325 Pa・静温 300 K に相当)
- 1️⃣ Patch Setup: ドメイン x_min = inlet・x_max = outlet・y/z 面 = symmetry、 翼面 6 枚が wall
- 8️⃣ Runtime Monitors: 楔面近傍(衝撃波の内側)±y の 2 点と上流 自由流 1 点に probe
- 6️⃣ Run タブ → ケースサマリを確認 → 🚀 Generate & Run

- 4 コアで約 30 分で完了します(2,000 反復)
期待される結果
実行が正常に終われば、以下とほぼ同じ数値になります(見本: sample_report.html)。
| 量 | CFD | θ-β-M 理論 | 差 |
|---|---|---|---|
| 衝撃波後の温度 T₂ | 374.6 K | 374.6 K | 0.01% |
| 衝撃波後の流速 |U₂| | 576.4 m/s | 576.5 m/s | 0.02% |
| 衝撃波後の圧力 p₂ | 202.7 kPa | 211.8 kPa | −4.3% |
| 自由流 probe(上流) | 101.3 kPa / 300.1 K / 694.4 m/s | 設定値どおり | ✓ |
| 質量保存(入口 vs 出口) | 29.412 kg/s 一致 | — | 0.0003% |
| 品質チェック | 合格(PASSED) | — | — |

上下対称位置の 2 probe が同じ値を返すこと(流れの対称性)も確認できます。 圧力の −4.3% は 1 次風上スキームによる衝撃波のなまりと、丸め先端による わずかな離脱衝撃波の影響で、この解像度の定常解析として妥当な精度です。
結果の可視化例(Post Processor タブ)— 楔の先端から理論角 β ≈ 44° で 斜め衝撃波が伸びる様子が圧力コンターで見えます:


理論値との照合(この解析は正しいか?)
半頂角 δ = 14.0°・M∞ = 2.0 の斜め衝撃波(弱解)は θ-β-M 関係式から:
- 衝撃波角 β = 44.1°
- 圧力比 p₂/p₁ = 2.090 → p₂ = 211.8 kPa
- 温度比 T₂/T₁ = 1.249 → T₂ = 374.6 K
- 衝撃波後マッハ数 M₂ = 1.486 → |U₂| = 576.5 m/s
CFD の probe(楔面と衝撃波の間・x = 50 mm, y = ±20 mm)は T・|U| を 0.02% 以内、p を −4.3% で再現しました。温度と速度は衝撃波関係式の 「強い」量なので一致が鋭敏です。
📐 マッハ角の確認: 衝撃波は自由流のマッハ角 μ = asin(1/M) = 30° より 立っている必要があります。β = 44° > 30° ✓。楔角を大きくしていくと ある角度(M=2 では δ_max ≈ 23.0°)を超えたところで付着斜め衝撃波が 存在できなくなり、離脱衝撃波(bow shock)に変わります——Physics タブの マッハ数を変えて試せるのも CFD ならではです。
自分の問題に応用するには
- マッハ数を振る: M∞ を変えれば β の変化を θ-β-M 線図と比較できます。 M を下げると衝撃波角 β が大きくなり、本例題の 14° 楔では M ≈ 1.57 を下回ると付着斜め衝撃波が存在できなくなって離脱衝撃波に 変わります(θ_max(M) = 14° を満たす M。楔角ごとに値が変わります)
- 実形状の超音速機体: 同じ設定思想(mach 入口・symmetry 準 2D)で 翼型・ノーズコーンの前縁衝撃波を評価できます
- 精度を上げたい場合: ベース分割を細かくすると衝撃波の厚みが薄くなり、 p₂ の一致も改善します(セル数と計算時間はトレードオフ)
- 自分のジオメトリで解くには: 物体の形状だけを用意する外部流れの構成は ジオメトリ準備ガイド 第2章(外部流れ) にまとめています
ジオメトリ: fixtures/compressible/supersonic(例題化時に新規検証確立: 2026-07-19・θ-β-M 理論と T/U 0.02% 以内・p −4.3%・質量保存 0.0003%。 この例題の整備で超音速 BC(全固定入口/外挿出口)・transonic 定式化・ div(phid,p) スキームを製品に追加した)