例題5: 発熱チップ実装基板の冷却(共役熱伝達・多固体 3 リージョン)
PCB 基板の上に実装された発熱チップをダクト送風で冷却する、 多固体 CHT(3 リージョン: 空気 + チップ + 基板)の例題です。 チップ→基板の固体間熱伝導と、低熱伝導 FR-4 基板の断熱効果を含みます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 解析タイプ | 固体+流体の熱連成(CHT)・chtMultiRegionSimpleFoam(定常) |
| ジオメトリ | 160×80×60 mm ダクト床面に PCB(160×40×4 mm)+チップ(60×40×8 mm) |
| 固体1: chip | シリコン(κ=150 W/m·K, cp=700 J/kg·K, ρ=2330 kg/m³)・発熱 5 W |
| 固体2: pcb | FR-4(κ=0.3 W/m·K, cp=1200 J/kg·K, ρ=1850 kg/m³)・非発熱 |
| 流入条件 | 空気 2 m/s・300 K(チップ基準 Re_L ≈ 7.6×10³) |
| 乱流モデル | k-ε |
| メッシュ | snappyHexMesh・2 mm 一様(全界面がセル面に整列)・約 9.6 万セル |
| 実行規模(目安) | 8 コア・30,000 反復・約 2 時間(低 κ 基板の界面結合収束は遅い — 下記) |
所要時間は目安です。実行環境・メッシュ規模・混雑状況により変動します。
この例題で学べること
- 多固体 CHT の 3 リージョン構成 — 固体領域は複数追加でき、
固体同士が面で接触していれば界面(
chip_to_pcb)は自動で熱連成される - 固体間熱伝導 — チップの熱は「表面→空気」だけでなく「底面→基板」へも 逃げる。低熱伝導の FR-4 がどこまで熱を運ぶかが見どころ
- 実装部品の温度予測ワークフロー — 発熱量と風量から部品定常温度を求める、 電子機器熱設計の最小構成モデル
実行手順
- ex05_pcb_chip_cooling.ofb.zip をダウンロード
- StreamWright サイドバーの 📂 Load Project (.ofb.zip) に投入

- 設定の見どころ
- 🎯 解析タイプ: 固体+流体の熱連成(CHT)
- 4️⃣ Physics: 固体領域が 2 つ —
chip(シリコン・発熱 5 W)とpcb(FR-4・非発熱)。材料と発熱量は固体ごとに独立に設定できる - 1️⃣ Patch Setup: Face_1(x=0 面)= inlet 2 m/s、Face_2(x=160 面)= outlet、 他 4 面 = wall
- 6️⃣ Run タブ → ケースサマリを確認して 🚀 Generate & Run

期待される結果
以下は標準メッシュ(2 mm 一様)での参照値です。壁近傍の熱伝達はメッシュ 解像度に敏感で、1 mm に細分すると ΔT は 3〜4 割下がります(下記「妥当性の確認」)。 精度保証された検証値ではなく、教材用の再現基準として扱ってください。
| 量 | 値 | 確認場所 |
|---|---|---|
| チップ温度(30,000 反復時点) | 約 351 K(ΔT ≈ 51 K・ほぼ等温) | 温度履歴・レポート |
| 温度履歴の漸近外挿(完全定常) | 約 352 K(ΔT ≈ 52 K・30,000 反復で定常の約 99%) | 温度履歴 |
| 基板温度 | チップ直下が最も高く(≈チップ温度)、端部はほぼ 300 K | 断面コンター |
| 質量保存 | 入口 = 出口 = 0.0113 kg/s(= ρAU) | swConv モニタ |
| 品質チェック | 「注意」(圧力の定常性 ±3.3%・並列密度の助言 — 熱定常は到達 ✅。異常ではありません) | 3 段階総合判定 |


結果の可視化例(Post Processor タブ):


妥当性の確認(この解析は正しいか?)
共役の多固体問題に閉形式解はないため、熱伝達率相関でのオーダー確認で 妥当性を見ます。
- 相関による見積り: チップ上面の強制対流(L=60 mm・Re_L ≈ 7.6×10³)の 平均熱伝達率は h ≈ 20〜45 W/m²K 程度(平板相関 h≈23 を中心に、前縁の 剥離・再付着でばらつく)。チップ露出面積 A = 4.0×10⁻³ m²(上面 2.4×10⁻³ + 側面 1.6×10⁻³)から ΔT = Q/(h·A) ≈ 28〜63 K の帯域が見積もれます。 解析の定常値 ΔT ≈ 52 K(h_eff ≈ 24 W/m²K)はこの帯域内です
- 基板への熱逃げ: FR-4 は κ=0.3 W/m·K と低く、チップ底面 → 基板 → 空気の 経路は限定的です。チップ直下だけが温まり基板端部はほぼ 300 K のままになる ことが、低熱伝導基板の物理として正しい振る舞いです
- エネルギー収支: 定常では発熱 5 W = 空気が持ち去る熱量。ダクト全体の 混合平均温度上昇は ṁ·cp から約 0.4 K と小さいですが、チップ後流の局所温度 上昇として明瞭に見えます
⚠️ メッシュ独立性は確認できていません: 同じケースを 1 mm メッシュで 解くと壁近傍の h が上がり、ΔT は 3〜4 割低下します。結果が 30〜40% 変わる以上、本例題の ΔT ≈ 52 K は「メッシュ独立解」ではなく 標準メッシュでの参照値(オーダーチェック済み)です。部品温度を設計 判断に使う場合は、必ずメッシュを 1 段細かくして感度を確認してください。
💡 シリコンの熱伝導率が高い(Bi ≪ 1)ため、チップ内はほぼ等温になります。 一方 FR-4 基板内には大きな温度勾配が残ります。この対比が多固体 CHT の 見どころです。
知っておくべき多固体 CHT の性質
- 界面は自動生成: メッシュ分割時に
fluid_to_chip/fluid_to_pcb/chip_to_pcbの結合界面が自動で作られ、温度連続・熱流束連続で結合されます - 低 κ 固体は収束をさらに遅くする: segregated 結合の CHT は固体温度の 立ち上がりが指数的にゆっくり収束しますが(例題4 参照)、低熱伝導の FR-4 を 介した結合はその時定数をさらに引き延ばします(本例題の実測: τ ≈ 5,500 反復。 メッシュを細かくすると反復あたりの伝播も遅くなり τ ≈ 17,000 反復まで 伸びます)。収束判断は残差でなく温度履歴の水平漸近で行ってください (🔁 リスタートで反復を追加できます)
- 固体が増えても手順は同じ: Physics タブで固体を追加するだけで、 リージョン分割・界面結合・材料設定はすべて自動化されています
自分の問題に応用するには
- 実基板・実装部品: 実形状の STEP を固体として与えるだけで同じ流れで 解けます。小さな部品はメッシュ細分レベルを上げてください (目安: 最小寸法に 2〜3 セル)
- 複数発熱部品: 固体領域は 3 つ以上でも追加できます。部品ごとに発熱量を 設定し、相互の熱干渉(上流部品の排熱が下流部品を温める)を評価できます
- メッシュ感度: 壁近傍の熱伝達はメッシュ解像度に敏感です(本例題を 1 mm 細分で解くと h が上がり ΔT は 3〜4 割下がります)。部品温度を設計判断に 使う場合は、メッシュを 1 段細かくして感度を確認してください
- サーマルビア・銅箔: FR-4 の実効熱伝導率を面内/厚さ方向で使い分けたい 場合は、簡易的には体積率で平均した等価 κ を与えます
- 自分のジオメトリで解くには: 複数固体の配置と薄い固体の界面の注意点は ジオメトリ準備ガイド 第3章(CHT) にまとめています。CAD ソフト別の操作は 第7章 を参照してください
ジオメトリ: fixtures/cht/pcb_2solid(検証: 2026-07-20 実機 E2E・h 相関帯域との 整合を確認)