例題4: ダクト内発熱ブロックの強制空冷(共役熱伝達・2 リージョン)
ファンで送風されるダクト内の発熱部品の温度予測を、固体と空気の 共役熱伝達(CHT)で解きます。強制空冷の最小構成モデルで、CHT 解析の 基本ワークフローを学びます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 解析タイプ | 固体+流体の熱連成(CHT)・chtMultiRegionSimpleFoam(定常) |
| ジオメトリ | 1000×300×200 mm ダクト中央に 40 mm 角アルミブロック |
| 固体 | アルミ(κ=237 W/m·K, cp=897 J/kg·K, ρ=2700 kg/m³)・発熱 10 W |
| 流入条件 | 空気 3 m/s・300 K(ブロック基準 Re_D ≈ 8,000) |
| 乱流モデル | k-ε |
| メッシュ | snappyHexMesh・ベース 12.5 mm+ブロック面 2 段細分・約 41 万セル |
| 実行規模(目安) | 8 コア・10,000 反復・約 1.5 時間(CHT の界面結合収束は遅い — 下記) |
所要時間は目安です。実行環境・メッシュ規模・混雑状況により変動します。
この例題で学べること
- CHT の 2 リージョン構成 — 流体(STEP → 面分割)と固体(STEP)を 別々に投入し、界面は自動で熱連成される
- 発熱条件の与え方 — 固体に体積発熱量 [W] を設定する
- 強制対流冷却の定常温度予測 — 部品温度が発熱と対流放熱のバランスで決まる
- エネルギー収支での妥当性確認 — 発熱量が出口へ運ばれる熱量と釣り合うか
実行手順
- ex04_heatsink_forced.ofb.zip をダウンロード
- StreamWright サイドバーの 📂 Load Project (.ofb.zip) に投入

- 設定の見どころ
- 🎯 解析タイプ: 固体+流体の熱連成(CHT)
- 4️⃣ Physics: 固体領域
heatsink(アルミ・発熱 10 W)・流体は空気 - 1️⃣ Patch Setup: Face_3(ダクト上流面)= inlet 3 m/s、 Face_5(下流面)= outlet、他 4 面 = wall
- 6️⃣ Run タブ → ケースサマリを確認して 🚀 Generate & Run

期待される結果
| 量 | 値 | 確認場所 |
|---|---|---|
| ブロック温度(10,000 反復時点) | 約 342〜343 K(ほぼ等温) | 温度履歴・レポート |
| 温度履歴の漸近外挿(完全定常) | 約 346 K(ΔT ≈ 46 K) | 温度履歴 |
| 質量保存 | 入口 = 出口 = 0.217 kg/s(= ρAU) | swConv モニタ |
| 流体の後流温度上昇 | ブロック下流にサーマルプルーム | 断面コンター |
| 品質チェック | 「注意」(温度がまだ僅かに上昇中 — 下記参照。異常ではありません) | 3 段階総合判定 |

📚 この例題の主眼: 10,000 反復終了時点で温度は定常値の約 92% に達しますが、 まだ +0.7 K/1,000 反復で上昇中のため、品質チェックは正直に「注意」を出します。 ここから (1) 温度履歴の漸近カーブを外挿して定常値を見積もる、(2) 🔁 リスタート 機能で End Time を延長して続きから回す — という実務の収束判断を体験できます。

結果の可視化例(Post Processor タブ):


妥当性の確認(この解析は正しいか?)
共役強制対流の部品温度に閉形式の厳密解はないため、熱伝達率相関でのオーダー 確認とエネルギー収支で妥当性を見ます。
- 相関による見積り: 角柱まわりの強制対流(Re_D ≈ 8×10³)の平均熱伝達率は h ≈ 20〜40 W/m²K 程度(角柱の相関はばらつきが大きい)。表面積 A = 9.6×10⁻³ m² から ΔT = Q/(h·A) ≈ 26〜52 K の帯域が見積もれます。 解析の外挿定常値 ΔT ≈ 46 K(h_eff ≈ 23 W/m²K)はこの帯域内です
- エネルギー収支: 定常では発熱 10 W = 空気が持ち去る熱量 (ṁ·cp·ΔT_bulk)。ダクト全体の混合平均温度上昇は約 0.05 K と小さいですが、 ブロック後流の局所温度上昇として明瞭に見えます
💡 アルミの熱伝導率が高い(Bi ≪ 1)ため、ブロック内はほぼ等温になります。 これも解の物理的な健全性チェックの一つです。
知っておくべき CHT の性質: 定常でも数千反復かかる
CHT の定常解析は、流体と固体を交互に解いて界面で熱を受け渡す方式 (segregated 結合)のため、固体温度の立ち上がりが指数的にゆっくり収束します。 この例題の実測では 10,000 反復で定常値の約 92%(342.5 K / 外挿 346 K)に到達 します。単相流の例題(数百反復)とはスケールが違う点に注意してください。
- 収束の判断は固体温度の履歴で: 残差だけでなく、Run タブの温度履歴が 水平漸近していることを確認します
- 途中で打ち切った場合: 温度は必ず「低い側」に外れます(まだ温まりきって いない)。過小な温度予測は設計上危険側なので、収束確認は必須です
- 続きから回せます: Run タブの 🔁 リスタートで、Control タブの End Time を 増やしてから続行すれば、メッシュ生成をやり直さずに反復を追加できます
- ※固体の cp・ρ は定常解にも収束速度にも影響しません(本ソルバは固体を 時間項なしで解くため)。反復数を左右するのは緩和係数と界面結合です
自分の問題に応用するには
- 実際のヒートシンク形状: フィン付き形状の STEP を固体として与えるだけで 同じ流れで解けます。フィンギャップにメッシュが入るよう、固体の細分レベルと ベースメッシュを調整してください(目安: 最小ギャップに 2〜3 セル)
- 複数発熱部品: 固体領域は複数追加できます(例題5 で扱っています)
- 発熱量・風量の感度: ΔT はおおむね発熱量に比例、風速の約 0.6〜0.8 乗に 反比例します。まず 1 ケース解いてから相関でスケーリングすると効率的です
- 自分のジオメトリで解くには: 固体を流体ボリュームに内包させる考え方は ジオメトリ準備ガイド 第3章(CHT) にまとめています。CAD ソフト別の操作は 第7章 を参照してください
ジオメトリ: fixtures/cht/heat_sink_1(例題用に定常ソルバ+縮小メッシュで再設計。 検証: 2026-07-16 実機 E2E・h 相関帯域との整合を確認)